おきなわいち


上地哲の沖縄事典 (おきなわ自転?)
by UECHI
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ポーク缶詰の話 (2001年7月11日出稿)

ポークの缶詰
 東京で生活していた頃の話ですが、銀座のデパートの輸入食品売り場でスパムとチューリップのポークランチョンミート缶詰を見かけた時は驚きました。様々な国のチーズとか、果物のシロップ漬けやキャビアなど、おしゃれなイメージの外国産商品の中で、あまりにも見慣れた“顔“があったからです。それはまるでドレスやタキシードが舞う華やかなダンスパーティーの会場で“かぁちゃん”に出くわしたような感じなのです。しかも、ちゃんと棚に並んで他の舶来の商品と見劣りすることなく毅然と居座っているではないですか。価格まで600円近くもしていたかと思います。もちろん買うことはありませんでしたが、しばらく眺めては、ウ~ンと唸っていました。東京の友人に聞いたら、いまでも銀座の明治屋や青山の紀伊国屋にあるとのことでした。
 沖縄ではいろいろな料理にこの食材を利用します。子供の頃の弁当のおかずに、母はよくこのポークのてんぷらを作ってくれました。スライスしたポークを、湯通しして余分な油分を落とし、海苔で巻き厚めの衣で揚げるのです。これを一口サイズにカットすると、その切り口がポークのピンク色と海苔の黒と衣の黄色できれいに見えるのです(海苔がなくてもいいのですが)。とてもおいしくて大好きなおかずでした。また、味噌汁の具としても良く使われていましたね。たっぷりの野菜ととても相性のいい具だと思いました。朝食には薄くスライスしたポークをカリッと焼いてスクランブルエッグか目玉焼きを添えれば、ご飯にもパンにも合うメニューで、ハムエッグやベーコンエッグなんかよりおいしかった。ビーチパーティーでは焼きそばの具や網焼きで、沖縄料理ではゴーヤーや豆腐とチャンプルーにしても良し。ついにポークチャンプルーというメニューまで出て主役にまで登りつめた感じ。まさに万能の食材でしたね。
 私が東京の墨田区で「沖縄屋」という小さな専門店をやっている頃、近所に住むフィリピン人たちがよく買い物に来てくれました。錦糸町のクラブでダンサーとして働いていた彼女たちの大好物がポークランチョンミートのスパムとゴーヤー、ナーベーラーでした。ゴーヤーは「アンパラヤ」、ナーベーラー(へちま)は「パトーラ」と言っていましたが、スパムは「スパム」でした。沖縄同様、アメリカの支配時代、米軍基地の存在など、アメリカの食文化が地元に大きな影響を与えていたようです。不思議とチューリップよりスパムを好んでいましたね。アンパラヤと炒めるとおいしいと言っていました。何となくお互いに異郷の東京にあって共有できるなつかしさを感じた気がしました。
 沖縄でもポークの缶詰は戦後の米軍政下を代表する食材になりました。もともと缶詰はナポレオン軍のロシア遠征の時の携行食糧として開発されたものだそうですから、軍隊が進駐していく先には必ずもたらされるもののようです。戦禍による食糧難と軍事用非常食という性格がポーク缶詰の背景にある一面でもあります。しかしその出自はともかく、沖縄の人たちの食文化の中にいちはやく取り入れられたのは、豚肉をこよなく愛する沖縄人の嗜好にピッタリとマッチしたからに他なりません。今でもスーパーのチラシの最大の呼び物はポーク缶詰なのですから、食生活が豊かになった現在でも沖縄人が一番好きな食べ物かもしれません。無添加食品にこだわる生協でもポークは欠かせない商品です。何とコープ仕様の無添加ポークが委託製造されているのです。残念ながら生協ブランドなのでおきなわいちでは販売できませんが、沖縄の食生活には欠かせない食生活事情を証明する一面ですね。
 東京の銀座わしたショップで店長をしていた頃、スパムとチューリップのポークを販売していました。今まで書いてきたように沖縄を象徴する戦後の食事情から、ゴーヤーチャンプルーやフーチャンプルーなどに合う食材として、また、沖縄に観光で行った事のあるお客さんからの要望もあり、沖縄ホーメルと富村商事に出店してもらっていたのです。当然お客さんからは喜ばれ、売上も順調でした。ところがそのことが、ある公的な筋からきついお叱りを受けることになったのです。「県産品を売るべきわしたショップが輸入品を売るとはけしからん!」と、いつの間にやら大騒ぎ。とある公的機関の東京事務所の方がこっそりポークなど(他の疑わしき商品も)を隠し撮りして県や、とある公的筋に秘密の報告書を出していたのです。私は公的に説明を求められるはめになりました。
 沖縄で販売されているポークのうち、代表的なものが富村商事のチューリップと、沖縄ホーメルのスパムです。確かに前者はデンマークのチューリップ社で、後者は米国ホーメル社で製造されています。しかし、どちらも富村商事と沖縄ホーメルそれぞれのオリジナルなレシピとパッケージで沖縄側からの指示に基づいて製造され、完成品はほぼ100%両社に引き取られ沖縄で販売されているものなのです。沖縄料理と沖縄人の味覚に合うように作られているのです。細かく言えば、富村商事のチャンプルーポークという名前の商品は世界中探しても沖縄にしかないし、ホーメルのうす塩スパムも沖縄ホーメルのオリジナル製品なのです(Salt less SPAM減塩スパムは米国にもあるが別物)。これは県外製造工場への委託生産(OEM)の一形態と見ても良いと思います。一時期沖縄ホーメルは沖縄工場でスパムを製造していましたが、原料となる豚肉の高値と輸入関税の高さで採算が取れなくなってしまったのです。一度は倒産した同社は、様々な企業努力で業績を回復しようと努力しています。みんなで応援しましょう。
 私はだいたい次の5点で説明してきました。(1)ポークは現代の沖縄の食文化の一部になっている。(2)わしたショップではバラバラな商品ではなくトータルな沖縄のイメージを売る。(3)両社のポークはOEM生産の一形態である。(4)企業努力を続ける県内メーカーを応援する。(5)沖縄観光と県産品のリピーターであるお客さんのニーズに応える。
多くのみなさんの支持はいただいたのですが、残念ながらクレームを言って来たとある公的筋の方のご理解はいただけませんでした。沖縄で製造されたもの以外は売ってはいけないと言うのです。しかし私は自分の信念でポークを売りつづけたのは言うまでもありません(今も売っているかどうかわかりませんが)。
 テレビで活躍するジェイ川平も、以前ある航空会社の機内誌にスパムが大好きだったと書いていました。沖縄で暮らした私たちの、少年期の忘れられない味があの缶詰に詰まっているのです。
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by s.t.uechi | 2001-07-11 13:10 | 沖縄事典